「立ち上がる」のキモは邪魔しないこと
けんちろ
2016/05/18

介護する際に何が大変・・・って立ち上がりの介助は大変な介助の一つではないでしょうか。
実際に転ぶ時も立ち上がりの最中にバランスを崩してしまって転ぶ場面が多いようです。
 
では、立ち上がるとはどういった動作なのか考えて、そのうえで介助するポイントを押さえていきましょう。
立ち上がる、というと足の力がとても重要になってくるのは間違いないのですが、実は足の力以外に大事なポイントがあります。
 
では、立ち上がりを例のごとく少し物理的に重心の移動で考えてみましょう。
 
人間の重心はだいたいおへそのあたりにあると思ってください。
このため、座っている時は重心は椅子の上に重心がありますね。★図A★



では立ち上がるとどうなるのか、立ち上がってしまうと重心は座っていた時の位置から考えると前上方へ移動しているのがわかるかと思います。★図B★


重心の位置が前と上方向へ移動する、これが立ち上がりを重心の移動で見た動きとなります。
 
さらに立ち上がりの一連の動きをコマ割りにして、この重心の動きを追ってみましょう。★図D★

①座っている姿勢
②頭を下げて体を前に伸ばす&足を後ろに引く(前への重心の移動)
③お尻を持ち上げる(さらに重心を前に移動して上方向に重心を引き上げる)
④膝を伸ばして立ち上がる(重心を上に引き上げる)

このように大体4つに分けられます。
そして、この中で大事なポイントは前へ重心を移動させること、上に重心を移動させることです。
 
では、それぞれのポイントをより詳しく、介助方法も踏まえて考えてみます。



<前方向へ重心を移動するポイント>
なぜ立ちあがるのに頭を下げるのでしょう?
それは頭を下げることでシーソーのようにお尻が持ち上がるからなのです。
水飲み鳥の動きを想像すると分かりやすいかと思います★図E★



頭の重さを使ってお尻が自然と椅子から離れるため、お尻を持ち上げるのにほとんど力が必要なくなります。
そして、足を引いてお尻と頭のバランスをとるシーソーの支点を重いお尻側に置くことでより前に重心を移動させやすくしています。
 
さて、ここで実験です。
①誰かに頭を押さえてもらい、頭を下げないで立ち上がる
②足を後ろに引かないで、立ち上がる

この2つをやってみてください。
足の力がある方ならこの条件でもなんとか立ち上がれますが、高齢や病気で足の力が衰えるとこのやり方ではまず立てなくなります。★図F★



ですので、ここでの介助のポイントは
「頭を前に下げるように声をかける」(例:お辞儀をしてください)
「足を後ろに引くように声をかける」

ことです。
 
そして声掛け以外で介助で大事なこと!

それは本人の動きを邪魔する場所に介助者が立たないことです。
介助をしなければ!という思いで本人に密着するような位置にて、本人の頭を下げる動きの邪魔になっている駄目なパターンがよく見られます。
頭を下げるくらい距離をとるか、斜めの位置に立つ位置を変えるなどして本人の動きを邪魔しないようにしましょう。★図G★





<上方向に重心を移動するポイント>
頭をちゃんと下げているのに立てない。その場合は立ち上がりの高さに問題があるのかもしれません。
重心を上に移動させることを考えたとき、椅子が高いほど重心移動の距離が小さくなり動きの負担も軽くなります。★図C★




考えてみてください、深く低いソファーから立ち上がるのと、バーにあるような高い椅子から立ち上がるのではどちらがやりやすいでしょうか。

さすがに高齢者をバーの椅子に座らせる家もないでしょうが、ベッドからの立ち上がりと考えたらどうでしょうか。

電動の介護ベッドは高さ調節ができるものが一般的ですので高さを少しだけ高くしてみてください。
これまでよりずっと楽に立てるはずです。

目安としては膝よりお尻の位置が高く、足はちゃんと着く程度です。
また、車椅子や椅子の場合はクッションを入れて高さをあげることもできます。
 
ですので、ここでの介助ポイントは
「座っているお尻の位置を高くする」
です
 
まとめますと
①お尻の位置を高くする(ベッドの高さ調整、クッションを入れる)
②頭を下げる(声をかける、邪魔な位置にいない)
③足を後ろに引く(声をかける)

この3つのポイントを抑えるだけで、立ち上がりの介助がぐっと楽になります。
 
本人は動きを邪魔されてうまく立ち上がれず、それを力任せに立ち上がらせて介助者は腰を痛めるという最悪の結果にならないよう、立ち上がりのポイントを押さえた介助をしてみてください。






 


この記事を書いた人
昭和49年生。熊本県熊本市出身。
平成9年西日本リハビリテーション学院理学療法学科夜間部卒業。

夜間学校と平行して病院での介護助手を経験し、排泄や食事、起きて過ごすことといった当たり前の生活行動が人を支えることを学ぶ。

卒業後病院経験を経て、訪問診療のクリニックで訪問リハビリテーションに黎明期から携わる。退院後の生活を支えるだけでなく、医師との密な連携の中で自宅での看取りや癌や難病などの療養支援を行う。

自治体の住宅改修のアドバイザーも務め、障害の特性に合わせるだけでなく家族情況や予算など実生活に即した視点を持つ。

理学療法士養成校での専任講師を経て現在は複数の施設に関わりながら、新人教育のフォローなど利用者支援以外でも活躍している。
地域生活をフィールドに、楽に暮らす=心地よく生きることを自他に推奨する、理学療理学療法士っぽくない理学療法士。