「多世代交流”と“時代間交流”が、ひとつ屋根の下で同居している“大家族”施設」
中川逸斗
2016/03/09


施設の入り口に立つと、こどもたちの朗らかな声が聞こえてくる。
ふと見ると高齢者の方とこどもたちが、日常生活に溶け込む形で活発に交流している。

東京都は江戸川区。
こどもたちと高齢者の方々の多世代交流が活発に行われている介護施設がある。

昭和37年に設立された社会福祉法人「江東園」だ。

「江東園のコンセプトは、“地域に根ざした大きな木”です。ひとりひとりの個人がお互いに寄り添うことで、地域に根ざした大きな木の幹になるのです。ここ江東園では、こどもたちが高齢者の方々と一緒に遊び、高齢者の方がこどもたちを見守る文化が根付いています。」
そう語るのは、社会福祉法人江東園、サービス管理室室長の井上知和さんだ。

江東園は、1Fに江戸川保育園があり、2Fが養護老人ホーム、3Fが特別養護老人ホームという構造だ。
1Fからこどもたちが2F、3Fへ上がって高齢者と交流し、高齢者が1Fへ降りてきて、役割意識を持って、こどもたちの食事の準備やおむつ替えなどの保育士のお手伝いを積極的に行うのだ。



施設の内部構造も工夫されており、保育所の前にリハビリ室があり、高齢者の方が子供にリハビリを頑張っている姿を見せるという。

江東園を見学させて頂いて、ひとつ気づいた点がある。

それは、こどもと高齢者の世代間交流に留まらないという点だ。
こどもと、スタッフの中間世代、そして高齢者の三世代の一体感が見事に醸成されているのだ。

例えば、江東園には、保育士・介護士など様々な職種が働かれているが、各職種のスタッフが横断的に他の職種のお手伝いをすることもあり、研修制度も保育士と介護士が双方の研修をそれぞれ受けるなど、スタッフ間の交流も活発だ。

また、スタッフが、入所している高齢者の“やりたいこと”を実現するという文化も江東園にはある。
例を挙げると、「思い出の地に行きたい」「屋形船に乗って釣りをしたい」「スカイツリーに行きたい」「鎌倉の大仏を見に行きたい」「家族と一緒にお笑いを見に行きたい」「離れ離れになった義妹と再会したい」など、これをスタッフが全力で応援し、一緒に実現する。
1Fのホールには、スタッフと高齢者の満面の笑みが心に沁みる「思い出写真」が壁一面に飾られている。
介護職、保育士、調理その他全てのスタッフの理念や想いにブレがない。

    -入居者さんとスタッフの方の観光・旅行の様子-


加えて、江東園では、毎月イベントを開催している。今月(3月)は、ひな祭りだ。
イベントになると、こどもたち、高齢者、そしてスタッフが一体となってイベントを楽しむ。
卒園式シーズンになると、高齢者の方々が別れの涙を流して見送るのだ。

イベント以外の日常生活の中でも、例えば、こどもから貰った、“石”をずっと大切に持っている高齢者もいる。
「○○君がね、石をくれたときの表情が何とも言えなかったの。私のお守りなんです。」
と、大切に石を持って言われる姿にも心を打たれる。



また、江東園では、実は障がい者の方々も大活躍している。
江東園から少し距離は離れているが、障害福祉サービス「えぽっく」で、こどもたちの卒園に向けて葉書・コースター・アイロンビーズのキーホルダーなどをこどもたちのために作っている。

もうひとつ江東園の興味深い点は、多世代交流だけでなく、時を越えた時代間交流も実現していることである。

江東園は、昭和37年設立の社会福祉法人で、その歴史は長い。
江東園の江戸川保育園に、幼児として入園・卒園したこどもたちが成長し、江東園(江戸川保育園)に保育士や介護士として戻ってくることもあるそうだ。
その保育士や介護士の方がお仕事をされている様子も見学させて頂いたが、時代を経て新しい世代と交流している姿に心が動かされた。

「保育士として戻ってくるだけではなく、お子さんを江戸川保育園に預ける親御さんの立場になって戻ってこられることもありますね。私は約20年前から江東園で勤務していますが、そのような光景を見ると、感慨深いですね。」
と井上さん。

現在、230名を超えるスタッフや100名を超える入居者がいる江東園だが、多くの方がみんなの名前をきちんと覚えているそうだ。それほど交流が活発化しており、ひとりひとりのストーリーを大切にしているという何よりの証拠だ。



“多世代交流”と“時代間交流”が、ひとつ屋根の下で同居している、素晴らしい世界。
この素晴らしい“大家族”を、あなたの目でも心でも見てほしいと思う。
活動の概要
活動名 社会福祉法人江東園
活動場所 東京都江戸川区江戸川1-46
活動を主催している団体名 社会福祉法人江東園
URL 1 http://www.kotoen.or.jp/
URL 2


 
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