Pocket

小川 知恵子 さん

職種:歯科衛生士(訪問歯科)

キャリア年数:23年(うち訪問歯科9年)

 

-小川さん、こんにちは。小川さんは訪問歯科の歯科衛生士としてご勤務されていましたが、その背景や想いを教えて頂けますか。

勤めていた歯科クリニックが訪問歯科を始めたことがきかっけで、訪問歯科の歯科衛生士として働き始めました。

 

訪問歯科の歯科衛生士として働いていくうちに、クリニックでの仕事内容の違いや、その難しさ、そしてやりがいに気付いていきました。

 

クリニックでの歯科衛生士のお仕事は、患者さんのゴールが見えていて、それに向けて治療していきますし、クリニックに来られる患者さんの口腔内状況はそれほど悪くありませんが、訪問になると、それが真逆に感じました。

 

訪問を始めて、最初に担当したのは老健に入居されていた認知症の患者さんでした。

意思疎通も難しく、クリニックでは考えられないような口腔内状況でしたので、どう対応したら良いのかを、当初は正直分かりませんでした。

口腔ケアをいくら実施しても、専門家の観点からすると、ゴールが見えないですし、効果も実感できないこともありました。

 

ただ、患者さんのご家族にとっては、生活が徐々に変わっていく事を感じて頂けたようで、感謝して頂くことができました。

例えば、「口臭が減った」「食事を美味しそうに食べるようになった」など、私たちが介入した結果、生活の質が変わったとご家族の方が感じる事ができたときに、非常にやりがいを感じましたね。生活の質を変える事は、訪問でしか実感できないことですし、そのやりがいが私のモチベーションだったと思います。

 

-歯科衛生士の皆様が、高齢者に対して支援できることを教えてください。

介護は入浴・排泄・食事など家族に大きな負担がかかりますし、口腔ケアを実施するとなると、さらに負担が増えることになります。ただ、高齢者の方の健康の事を考えると、口腔ケアはしっかり実施された方が良いと思いますし、負担が大きすぎる時は、歯科衛生士に頼って頂ければと思います。

 

まず、口腔ケアは“歯みがき”だけではありません。

食べられる口を作る、味を感じやすくする、口周りの筋肉を鍛える、誤嚥性肺炎のリスクを低減するなど、様々な目的があり、それに対する対処方法があるのです。

特にお口から食物を召し上がってない方が口腔ケアを実施していない場合、口周りの筋肉が委縮したり口が開きにくくなったり、顔貌が変化したり、若々しさもなくなっていきます。

 

口腔ケアを実施し、口周りの筋肉や噛める歯を残すことで噛む力が、脳への刺激をいきやすくし、認知症の予防や、つまずきそうな時など踏ん張りがきくようになるので、転倒予防にも繋がります。

特に要介護認定度が高い高齢者の口腔状況は全身にも大きく影響を及ぼします。例えば、口周りの筋肉が弱っている⇒食べ物をうまく噛めない⇒やわらかいものしか食べられない⇒栄養バランスが偏る⇒身体機能の低下⇒介護負担の増大、という悪循環に陥っている場合が多く見受けられます。ですので、お口のケアや、フェイシャルマッサージ、粘膜ブラシでのお口のストレッチ、保湿剤によるお口の潤いの維持等を行うことが大切です。

 

-口腔内の潤いの維持は重要と良く聞きますね。

はい。高齢者の方の口腔機能の「向上」は難しい部分もあるのですが、口腔ケアによって「維持」する事は十分可能ですし、誤嚥性肺炎のリスク等の低減のためにも、まずは最低限お口の清潔を維持する事が重要です。

一昔前は、死亡要因のうち肺炎は4位でしたが、最近では3位になりました。肺炎で亡くなる方の多くが75歳以上の高齢者であり、高齢者の肺炎の多くが誤嚥に関係していると言われていますし、誤嚥性肺炎の原因の1つにお口の中の細菌が考えられ、実際に検出された報告があります。

また、肺炎になると入院しますが、入院前より口を使わなくなるので、さらにお口の中をお手入れしないと雑菌が増えてしまうという悪循環に陥ってしまします。

 

その際に重要なポイントは口腔内の潤いなのです。

まず、当然ですが、口を使っていないと口腔内は汚れやすくなり、雑菌は増えていきます。

口の中に潤いがなく乾燥している場合、その雑菌はますます増えていくため、動かさなくたなった口の周りの筋肉のマッサージを行い“万能薬”である唾を出させることで、その問題を解決していきます。(ご病気の症状により、唾液が出にくい方もいらっしゃいます)

唾は、非常に殺菌性がありますし、口腔内の粘膜の保護や、皮膚組織の再生など様々な作用があります。実は薬よりも唾が出ている方が、口の中の清潔を保ちやすいこともあるのです。

 

また、口腔内の潤いを維持するための「保湿剤」ですが、300種類くらいあるので、購入する際、すごく悩むと思います。個人的な意見としては、水分量が多いものと、ヒアルロン酸が入っているものがオススメです。なぜなら、水分量が少なく粘度が高い保湿剤の場合、塗り方を間違えると、保湿剤が塊になってしまうため、逆効果になる事もあります。胃カメラ飲ませた時に、保湿剤の塊が見つかった事例も報告されているくらいです。

 

 

-なるほど。一方でご家族の方は、歯みがきも含めどう口腔ケアを実施すれば良いか分からないと思うのですが、いかがでしょうか。    

はい。ご家族でできることもたくさんありますが、全てを自分たちで実施しようとすると当然リスクも伴います。例えば、喉の奥に乾燥した痰が張り付いている場合もありますが、保湿剤を活用することで、喉の奥の乾燥した痰がふやけて喉の奥に流れることにより、窒息してしまうリスクもあります。例えば、我々であれば喉に異物が入れば咽ることで、異物を吐き出そうとしますよね。でも脳梗塞で麻痺がある方であれば、喉が痺れて気づかなかったり、高齢者の方であれば咽る力がなかったりするので、安易に喉の奥をケアしようとするのは危険です。ですので、訪問歯科の歯科医師や歯科衛生士に相談して頂いた方が良いかと思います。相談頂ければ、衛生士がきちんとケアし、適切なアドバイスができると思います。

 

また、口腔内の状況は個々人によって違いますし、疾患によっても異なるので、当然ケアの方法も変わります。もちろんお口のケアの基本方法は同じですが、その上でその方に応じたケアの方法を変えていけるのは歯科衛生士だけです。加えて、高齢者の方の身体は日々大きく変化するため、在宅検診を依頼して頂くのが一番理想です。もちろん、在宅検診は医療保険が使えますので、ご安心ください。

 

 

-ご家族の方が、ご自宅で最低限できる口腔ケアはありますか。

基本的なことであれば、「歯みがき」と「うがい(うがいが不可ならふき取り)」ですね。

あとは、口で食べられる方であれば、お茶を適度に飲ませて乾燥を防ぐこと。

乾燥が重度な方であれば、乾燥をケアするために保湿剤を活用し、口腔内に潤いを出すこと。

など、色々あります。

乾燥が重度の場合は、先ほども申した通り、リスクを伴いますので、まず歯科衛生士に介入してもらい、口腔内の環境を整えてもらった上で、歯科衛生士のアドバイス通りに保湿剤を使ってください。

まずは、口腔内の環境を整えることが重要です。

 

-ご家族の方が重症度を判断できる指標やリスクを低減する方法はありますか。

まず、うがい出来るか否かは、見て頂きたいと思います。うがいが出来ない方は、誤嚥リスクが高いケースが多く、口の中に食べかすが残っている事も多いですね。食べ物が咀嚼されずにそのまま残っている事もあります。

ご飯食べた後、お口の中にまだご飯の塊がまだのこっているのにすぐに寝かせると、気管に“食べかす”が入るリスクも高いので、口の中に“食べかす”が残っていないかチェックしてください。

また、顔の表情が乏しい方は口の周りの筋肉が衰えている可能性が高いため、表情をチェックしていただく事も先程のリスクの指標にもなり重要かと思います。

食事時間も重要な指標のうちのひとつでして、食事時間が極端に早いか、もしくは遅いかという事もチェックしてください。極端に食べるのが早い場合、特に認知症の方の場合は、きちんと咀嚼できていないケースも多いため、口腔内のレベルを測るひとつの指標になります。

 

-歯科医師・歯科衛生士に依頼するタイミングはどうですか。

口腔内の痛みを伴ったタイミングで依頼される人が多いように感じます。本当は、痛みを伴った時点での依頼はかなりひどくなってからのケースが多いです。

遅くとも、入れ歯が合わない、食欲が落ちてきた、口腔ケアを嫌がるなど、痛みが発生する前の前兆を見逃さずに依頼して頂ければと思いますし、仮に入れ歯が合っていても、痛い場合は口腔内が乾燥している可能性が高いと思いますので、ご相談ください。

 

ただし、予防から入る事が理想的なのは間違いありません。

口に痛みがないからと放置していると、手遅れになる場合もありますし、後から時間とお金も要することになるため、予防した方が時間的・経済的な負担が軽減されると思います。

そのあたりは、最終的には、ご家族の理解が必要になってくるわけですが、「口の中を見て、管理をする」という最低限の意識は持っていただきたいと考えています。

実際の現場では、入れ歯が割れてしまっていても平気なケースや、クラスプが折れているケースもあり、そのようなケースでは、かみ合わせが悪くなるため、力が入りにくくなり、身体全体にも悪影響を及ぼしてしまうのです。さらに、奥歯の尖った放置された虫歯が、舌にあたり続けていると、舌癌になるリスクもあるため、痛いとか違和感があれば、早めに歯科医師や歯科衛生士にかかり、病理判断してもらうことも重要ですね。

 

-現在、デイサービス等では、言語聴覚士や看護師の方も口腔ケアをされていますね。口腔ケアに対する意識は変わってきているのでしょうか。

一昔前に比べて、意識は向上していると思います。一昔前までは、歯科衛生士が他職種の方に口腔ケアの重要性を説明しても、あまり理解されませんでしたが、誤嚥性肺炎のリスク等も啓蒙されるようになり、最近では、理解が促進されているのではないかと思います。

デイサービスに関しても、口腔ケアを実施ししているデイサービスはまだまだ少ないですが、実施するデイサービスが増えていけば、高齢者の口腔内のリスクも低減していけると思います。

 

-訪問歯科の歯科衛生士として意識されていた事はございますか。

人間の身体の中でも最も敏感な部分を触れますので、いきなり口から触ることはせずに、口の周りから触れたりコミュニケーションを行いながらゆっくりと診察します。

そして、最も心がけていたことは、“同じ時間”“同じ場所”“同じ人”で実施する事です。

特に認知症の方は、時間・場所・人が毎回異なると不安になりますし、認知症の方以外でも、環境が変わると人によっては大きな精神的な負担になりますので、非常に意識していました。

それでも嫌がる方に対しては、口腔ケアを行う上では、患者さんのパーソナルスペースを考えて、横から実施したり、後ろから実施したりすることもあります。

 

もう少し、意識的な観点で言えば、訪問はクリニックと違い、患者さんの生活を見ますし、ほとんどの場合高齢者の方ですので、重い疾患があったり、複数の薬を飲んでいたりします。

生活面と医療面を念頭に置きながら問診していく必要があり、多角的な知識と経験が求められますので、セミナーに積極的に参加するなど、色んな知識を身に付ける事を意識していました。

 

-オヤミルでは、どんなアドバイスが可能でしょうか。

歯科衛生士は、業務のうちのひとつに口腔衛生指導があります。状況をお伺いしたうえで、どういう風にケアしていけばよいのか、どんな保湿剤を使えばよいか、どこを触れば良いかなど、色々アドバイスできるかと思います。

 

-ありがとうございました。最後に、介護するご家族の方へのメッセージをお願いします。

口の中は、分からない事が多いと思います。

でも、口は全身への入り口ですし、身体の病気と同様に悪くなってからでは遅いので、痛くなくても見せて頂きたいですし、その意識を日常の中に取り入れて頂きたいと思います。

また、介護予防事業でも、「栄養」・「運動」・「口腔」の3分野で地域・自治体が実施しています。是非ご参加されてみてください。

 安心して食べられるお口作りを目指すことは、生きがいを作ることでもあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

Pocket

コメントを残す