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西山 佳秀 先生

職種:歯科医師(訪問歯科)

勤務種別:訪問歯科診療所(伊勢崎デンタルクリニック 院長)

 

実は、訪問歯科というのは歯だけを診察するだけではないのです。

 

適切な訪問歯科医師にたどり着けない時は、訪問看護師などの医療職に相談すること

 

-先生、早速ですが、自己紹介と訪問歯科の特徴について教えてください-

現在、伊勢崎デンタルクリニックの院長として、高齢者の方を中心とした訪問歯科診療を実施しています。 訪問歯科は、プライマリケアにまで踏み込みます。つまりは、外来や往診のように痛みがあるから診察を実施するのではなく、定期的に口腔管理・全身管理をして、患者さんの病気の予防と健康を維持していくのが特徴です。私も経験したことはありますが、最期の看取りまで実施するケースもあります。 一方で、訪問歯科は、まだまだ全国的に浸透していないと感じます。 現在は群馬県で訪問歯科診療をしていますが、特に地方になると、その浸透度合いは低いですね。2014年までは首都圏で訪問歯科診療をしていましたが、首都圏では患者さん・介護者さん・介護従事者ともに口腔ケアや嚥下への意識は高いですが、地方は数年遅れていると言っても過言ではないと思います。 地方では、いまだに歯が痛いから訪問してほしいというスタイルの訪問歯科が多いのも事実です。 口腔疾患や嚥下等は、重症化してから介入しても間に合わないケースが多いので、介護予防の観点から訪問歯科を実施すべきだと思います。  

 

一方で地方だと(首都圏でもそうですが)訪問診療を実施している歯科医師の先生の数も少ないという実情もあります。患者さんや介護者さんはどうすれば良いでしょうか-

まずは、担当のケアマネジャーかお住いの地域の歯科医師会に尋ねてください。 ただし、訪問歯科=往診の発想の歯科医師の先生もいるので、全身管理の視点で訪問歯科を実施している先生を探してもらうと良いと思います。  

 

-ただ、歯科医師会でも訪問歯科医師が足りていないとよく聞きますし、全身管理の視点で歯科医師の先生を選ぶのは相当難しいのではないでしょうか-

そうですね。ですので、地域でセミナーをやって訪問歯科を啓蒙しているクリニックもあります。また、全身管理の観点からすると訪問看護の看護師さんと訪問歯科は非常に相性が良いです。 ですので、例えば訪問看護サービスを受けられているなら、訪問看護師さんに伝えるなど、とにかく関わっている“医療職”に伝えていけば適切な訪問歯科医師にたどり着く可能性が高いですし、訪問看護サービスを受けられている方なら、訪問歯科の介入が必要である可能性が高いので、一度相談してもらうのも良いかと思います。  

 

  訪問歯科は精神も含めた全身のトータルケアです。

 -なるほど。では、訪問歯科が必要な患者さんは、どのような疾患の方が多いですか-

認知症の方は多いですね。 歯科に関しては、疾患で捉えても良いのですが、我々訪問歯科医はトータルで診ます。 口の中は放置されているケースが多いですし、介護者さんやご自身で管理するのは大変になってきます。また、歯周病が進行しているものの自覚がなかったりするケースも多いですし、口の中の状態が全身の健康に影響を及ぼしている事も多いので、口の中全体の状況と全身の状況から判断することが多いです。    

 

-自覚がない場合、なかなか訪問歯科が必要であることを見極めることは大変だと思いますが、どう見極めれば良いでしょうか-

口腔内が乾燥している、飲み込みが大変になってくるなど、口の中に違和感を感じたら、必要である可能性が高いと判断してください。我々も問い合わせがあれば、まず一度患者さんの口腔内の状況をご自宅へお伺いして診察し、訪問歯科を本格的に導入すべきか否かを判断します。往診的な発想でいくと、問題がなければそれっきりという対応になりますが、訪問歯科の場合は、全身の健康と口腔内の健康は密接に関連するので、定期的に口腔内管理・全身管理をすべきかどうかという発想をするのです。  

 

-全身の健康とは、具体的にはどういう事でしょうか-

ひとつは、口腔内疾患が進行すると食べられなくなるので、全身の健康に影響がでてきまし、精神的にも苦痛が伴います。 もうひとつは、誤嚥性肺炎です。高齢者は誤嚥性肺炎が原因で亡くなる方も多いので、しっかりと適切な歯科治療や口腔ケアをして、誤嚥性肺炎を予防することが重要です。   また、健康に寄与するだけではなく、“生きがい”や“日常生活の活性化”にも繋がると考えています。 麻痺があり失語症の患者さんのケースですが、 その方は訪問歯科を実施する前も、ご家族の方や歯科医師の先生が口腔ケアを実施されていましたが、リハビリテーションの概念がなかったのです。 口腔内疾患を予防したり、健康を維持するためには、口腔ケアをすれば良いというわけではありません。 その方には、口腔ケアに加え、リハビリテーションによって口の筋肉を動かしていかないといけないことを伝えて、フェイシャルマッサージ等も実施しました。 すると、2週間後、ご家族の方が「なんだか少し変わってきた」「訪問歯科を実施することで、閉まらなかった口が、閉じるようになってきたことを実感できるようになった」と。   口の周りの固くなった筋肉をほぐしていくことで、唇に蜂蜜を塗って舌で舐めてもらう練習も行えるようになりました。動きにくかった舌が動くようになり、蜂蜜の味を実感できるようになったのです。 ご自身の身体に変化が起きることで、大変な介護の日常に光が射すのです。介護は大変なので介護者とご本人は日常的にぶつかり合うこともあるのですが、そのような喜びの共有によって、良いコミュニケーションが発生することもあります。それは歯科や口腔においては、比較的効果が表れやすいからかもしれません。   「先生のチームが来ることが楽しみ」 と介護者さんに言ってもらったときは嬉しかったですね。    

 

介護の現場では、ありきたりなアドバイスは通用しない  

-歯科診療・口腔ケア・全身管理・コミュニケーションのきっかけ。訪問歯科は幅広いですね。先生が訪問しない時の口腔ケアの方法はありますか-

ご本人の全身がどのような状況にあるのか、そして介護者の皆さんの介護力(介護する人数など)がどの程度あるのかによって変わってきます。 ご家族が口腔ケアを実施しようとするときに、例えばスポンジブラシを口の中に入れようとすると、噛まれる等の問題が発生するとよく聞きます。 そのようなケースは、もちろん“慣れ”も必要なのですが、訪問歯科の歯科医師や歯科衛生士に聞いて頂ければ、コツや方法等をアドバイスできると思います。 口腔内疾患の予防には、歯と歯の間や歯と歯肉の境目を細かにケアする必要がありますので、そこはお任せ頂ければと思います。介護の現場では、「スポンジブラシでケアすれば良い」という短絡的な事は言えません。質の高いハブラシや洗浄剤でも、現場では適切に使えないことがあるのです。 例えば、入れ歯洗浄剤は使った方が良いに決まっています。ただ、介護者の方から「洗浄剤を半分に割って使っても効果は同じですか」という質問をされたこともあります。時間的・精神的・経済的に逼迫している介護の現場では、そのような質問も当たり前のように飛び交いますし、排泄・食事・入浴等の介護をされていると、どうしても口腔の優先順位は低くなります。 でも、先ほども申したように口腔と全身は密接に結びついており、重要ですので、我々は介護者さんの負担にならない範囲で「ちょっとだけひと手間かけよう」というスタイルでご提案していくのです。    

 

全てをオープンにすることが患者さんとの信頼構築の第一歩

-先生たちが口の中を診ようとすると、嫌がる患者さんも中にはいると思いますが、どのように対応されていますか-

確かにいらっしゃいます。 まずは全てをオープンにすることです。 「歯科診療でどこまでできるのか」という不安を持たれている方が多いです。これは、介護者さんに限らず、ケアマネジャーさんや介護士さんも同様に、です。 我々は、できないことはできないと言いますし、「時間はかかるかもしれない」と事前にオープンにします。口の中に手を入れられるようになるまで時間がかかる患者さんもいますし、暴れる方もいます。その時に歯科衛生士が手を抑えることもあります(もちろん拘束は絶対にしません)ので、そういうことも事前にきっちりと伝えます。   もうひとつは、歯学的に正しい治療をしても、嫌がる方も多いので、信頼構築のために歯学的に重要なことを一旦度外視することもあります。でも、歯学的に重要なことを無視し続けていては我々の存在の意味がないので、段階的に診療を進めていきます。 「最初は軽い口腔ケア」「次は左の部分だけ」「次は右の部分だけ」という風に小さな達成感を積み上げていくのです。そうすることで、「痛くしない先生だ」という認識を持ってもらえます。段階的な進捗、それが例え小さな進捗であっても、医療・介護関係者、そしてご家族に伝えていきます。「何をされているか分からない」というのが最大の不安だと思いますので、きちんと状況と進捗を伝えて不安を取り除きます。   ただ、全ての歯科医師が段階的なプロセスを踏んでくれるとは限りません。歯学的に正しいことを徹底的にするという歯科医師もいます。 歯科医師にとっては、どちらの方が良いかという判断は難しいですが、患者さんにとってはどちらの方が良いかという事は確実にあると思います。患者さんは歯だけでなく、全身的な問題・性格も個々人によって異なりますので、毎回考えて段階的に実施していくべきだと私は思いますし、セカンドオピニオン体制も重要だとは思います。    

 

「分からないことがあればすぐに聞いてほしい」「無理しないでほしい」  

-ご家族の方ができることはありますか-

「分からないことがあればすぐに聞いてほしい」「無理しないでほしい」ということです。 先ほども申しましたが、歯科医師でも患者さんとの信頼構築のために軽い口腔ケアだけをして帰る場合もあります。介護者さんが口腔ケアをされることもあると思いますが、「なぜ口を開かないのか」「どうして暴れるのか」とイライラを募らせるのではなく、我々と協力しながら段階的に進めていきましょう。そして分からないことがあれば、何でも聞いてほしいのです。  

 

-先生の今後の抱負をお聞かせください-

地域で適切な医療・介護ネットワークを構築し、歯科と医科の関係性をより強固にしていきたいと考えています。 例えば、地域にオーラルヘルスケアステーションを作り、口腔に関する全般的なサービスを患者さんに提供していきたいですし、歯科衛生士さんに活躍してもらいたいと考えています。歯科衛生士さんも最近では高齢者の方へのケアの仕方を学んでいる方も多いので、常勤でも非常勤でも歯科衛生士さんが口腔ケアサービス等を適時適切に実施していける仕組みを作りたいです。 また、ステーション自体は大きくなくとも、地域の中核病院と連携していれば、スムースに患者さんに対して歯科治療や口腔ケアを実施できるようになると思います。  

 

-ありがとうございます。それでは、最後に介護者さんへのメッセージをお願いします-

まずは、ご自身の口の中に興味を持っていただきたいと考えています。 口の中に興味がなければ、訪問歯科を導入しても「何をされているのか分からない」という不安がついて離れないと思いますので、不安を解消するためにも、親御さんだけでなく、ご自身の口腔内を大切にしてほしいと思います。それが結果的に親御さんへ還元していくことになると思います。 そして、繰り返しにはなりますが、「分からないことがあれば聞いてほしい」「無理しないでほしい」というのは伝えたいです。 口の中のことは、我々歯科医師と歯科衛生士にお任せ下さい。        

 

 

 

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